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変わらぬことの大切さ:LGBTと元英ラグビー選手

浅川聖(駐日英国大使館 政治担当官)

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大柄の男性は、公にカミングアウトするのが「怖かった」と語った。英国ラグビー界のレジェンド、ギャレス・トーマス氏(45歳)である。ウェールズのナショナルチームに加え、英国・アイルランドの合同選手で構成するブリティッシュライオンズでも主将を務めた彼は、英国ラグビーファンなら誰もが知る存在だ。

 

トーマス氏は、昨年10月末にラグビーワールドカップ2019のコメンテーターとして来日したのであるが、ウェールズ対ニュージーランドの3位決定戦前夜、その姿はスタジアムではなく原宿のプライドハウス東京にあった。彼がゲイだからである。

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プライドハウス東京は、LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー)をはじめとするセクシャルマイノリティーに関する情報発信を行うホスピタリティ施設である。ラグビーワールドカップ2019期間中、原宿のど真ん中に期間限定でオープン。この日、トーマス氏は、プライドハウス代表の松中権氏と(公財)日本ラグビーフットボール協会理事の谷口真由美氏と共に、トークセッションの場に立っていた。テーマはLGBTとスポーツである。

 

セッションでは、スポーツがどのようにLGBTや多様性に影響を与えるのかについて焦点があてられた。振り返れば、今回のラグビーワールドカップ2019で史上初のベスト8入りを果たした日本代表も、7つの国の出身者で構成された多国籍チームであった。多様性を背景としたワンチームという言葉は、日本代表の躍進を語る一つの重要なエレメントになったのは記憶に新しい。

 

セッションも終盤に差し掛かった頃、松中代表がトーマス氏の経歴に目を移した。トーマス氏は、2011年に現役生活に終止符を打ったが、カミングアウトしたのは2009年。ゲイであることを包み隠さず2年間プレーしたことになる。カミングアウトにより、差別や偏見といった社会的反動を受ける可能性は想像できただろうが、大物選手のトーマス氏の場合、スポンサーが離れる商業的リスクすら帯同したであろう。このような中、現役中にカミングアウトした背景は何か? 松中代表の問いに対して、トーマス氏はカミングアウトしたその日を振り返り、こう語った。

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「その日は午後に試合を控えていたが、午前中に公にカミウングアウトしたんだ。正直怖かった。ラグビーは、常にチームメートと一緒に動くスポーツと思われがちだが一瞬だけ一人になる時がある。入場コールと共にスタジアムに一人で駆け出す時だ…。自分の名前が呼ばれたが、聴こえて来たのはこの日一番の大歓声だった。カミングアウトしてもプレイヤーとしての私は変わらない、とこの時感じた。そして変わらぬことに感謝した」。

 

 

トーマス氏のコメントからは、彼をカミングアウトへと突き動かした動機そのものは看取できなかったが、重要なことに改めて気付かされた。変わらないことの大切さであろう。LGBT当事者は、何も特別な権利を要求している訳ではない。性的指向や性自認に関わらず、生きる上での平等をあるがままに確保したいだけなのだ。

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トーマス氏の出身国である英国は、2010年に包括的な差別禁止法である「平等法2010(Equality Law 2010)」を成立させ、性的指向に加え、年齢、障がい、人種等を理由としたあらゆる差別を禁止している。2018年には、LGBT当事者を対象とした国単位では世界最大となる10万人規模のアンケート調査をもとに、政府は「LGBT行動計画(LGBT Action Plan)」を公表し、LGBT当事者の生活(lives)の向上を目的に75種類におよぶ具体的アクションを提示、450万ポンド(約6億5千万円)の予算をつけた。

 

英国政府は、誰もが安全で幸せで健康的な生活を差別の恐怖なく享受できる社会づくりを目指している。しかし、上述のアンケート調査によれば、LGBT当事者の3分の2が、人前で同性パートナーと手を繋ぐことを避けているとのことだ。愛する人と手を繋ぐこと。こんなシンプルな行為が、恐怖や萎縮の元凶になってはならない。言い換えれば、手を繋ぐことすら憚られる社会で、各人は、どうしたら自己の能力を最大限発揮できようか。

 

英国政府は、あるがままの自分でなければ、最高の自己ベストを社会で示すことはできないと強く考えている。だからこそ政府は、当事者が直面する障壁を放っておく事は決してせず、法的に差別を禁止しながら、実態調査に基づく行動計画を整備し、平等に一歩でも二歩でも近づくよう弛まぬ努力を惜しまない。トーマス氏が伝えた、変わらないことの大切さ。彼がカミングアウト後も最高のプレーでファンを魅了できたのは、変わらぬ周囲が彼の能力を引き出した結果とも言えるのではないか。

 

2020年夏、東京にオリンピック・パラリンピックがやってくる。プライドハウス東京は、オリパラに向けて再度オープンする予定とのことだ。英国大使館も後援という形で彼らの活動を応援している。平等と叫ぶだけでは足りない。彼らのようにアクションを取り、自分の能力が発揮できる社会づくりを一人一人が目指し行動に移すことが重要だ。2020年に大いに期待したい。

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文責:浅川聖(あさかわたかし)

駐日英国大使館政治部政治担当官。担当は人権と日本政治。

記事内ギャレス・トーマス氏の写真:Olivier Fabre 撮影

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